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【結の仕事術vol.7】「自分の強み」と「人の知りたい!」

出版プロデューサーとしてさまざまな本づくりに携わってきた平田静子が、人と人、情報と情報を「結ぶ」仕事術を紐解くシリーズ連載「結の仕事術」。

今では当たり前になったドラマのノベライズだが、その先駆けとなったのが50万部のベストセラーとなった『もう誰も愛さない』のノベライズ本。どんなふうに誕生したのだろうか。

徹底的に〝自分〟を掘り下げて考える

フジテレビから扶桑社に出向したのは、私が35歳の時だった。テレビ局にいたとはいえ、仕事内容は男性の補助的な役割ばかり。出版社の宣伝部に配属されて初めて、「現場の仕事」をするようになり、私は「仕事のやりがい」を感じ、毎日張り切っていた。 

ところが7年後、42歳の時、突然書籍編集部の編集長を命ぜられたのだ。 

書籍編集長といえば、編集経験を重ね、知識も人脈もそして実績も積み上げた末につくポジションだ。そこに編集経験のない私が就くのだから、冒険的な人事だ。なにせ私は「本とはどのようなプロセスを経て生まれるのか」という基本中の基本さえ分からなかったのだから。 

どうしよう。しかし、部下の企画を待つだけでは編集長と言えないのではないか。 

私は必死に考えた。 
「私にできることは何か」ということ、そして「私の強みは何か」を考えた。 

その結果浮かび上がったのが「テレビ」だった。 
テレビと出版では同じメディアとはいえ、つながりの薄い存在だ。しかし、私が働い ていたのはテレビの業界。出版業界には人脈がなくても、私にはテレビの人脈がある。 

そこに私が探している〝何か〟が埋まっているに違いない。そう考えたのだ。 

「続きを知りたい!」という熱い思いに応える

ちょうどその頃、フジテレビのあるドラマが圧倒的な人気を誇っていた。「もう誰も愛 さない」。吉田栄作、山口智子、田中美奈子という当時人気絶頂の役者を揃え、1991年4月から始まったこのドラマの人気の理由は華やかなキャストだけではなかった。 

1回でも見逃すとわけが分からなくなってしまうほど早い展開。急転直下でストーリーが展開していくことから「ジェットコースタードラマ」と呼ばれていた。なにせ、先週 まで主役だと思われていた登場人物が突然死んでしまった りするのだから、一話も見逃がせない。中毒性の高いドラマだった。 

もし、このドラマが本で読めたらどうだろう、と思った。 うっかり見落としてしまった回も本があれば読み返すこと もできるし、そもそもみんな続きが気になって仕方がないはずだ。続きはどうなるの!? 
そんな声があふれているような気がした。 

かつては同じ社内にいたよしみでドラマのプロデュー サーに聞いてみると、原作はなくオリジナル脚本とのこと。そこで脚本を小説化するノベライズという方法で本が出せないか聞いてみると、快く受け入れてくれた。 
ただし、まだ最後まで脚本が出来上がっていないという。 

もしかしたら、このジェットコースターは製作者にさえルートが見えていなかったのかもしれない。それを本にするため、上下2巻に分けることにした。 それまでテレビドラマの脚本を小説化するのはそれほど ポピュラーではなかった。それだけに、いくらヒットドラ マとはいえ本が売れるかどうか予測もつかなかった。しかも上下2巻だ。「ドラマを好き な人は本を読まない」「興味があったとしても2冊も買わな い」など、否定的な考えも浮かんでくる。正直、「絶対に売れる!」いう自信があったわけ ではない。
ただ、ドラマの人気はうなぎのぼり、最終的には24%近くの視聴率を得るほどだった。 

そんな中、本が発売された。すると、これが売れに売れたのだ。上下巻合わせて50万部 というベストセラーとなった。これ以来、「ドラマのノベライズ」は扶桑社の人気コンテン ツとなった。 

今、このヒットの理由を思い返してみると、2つある。 

まず「自分の強みは何か」を考え、企画を出したこと。それは、自分自身を深く知ろうとすることにつながる。そして、もうひとつが「人が持つ〝知りたい〟という根源的な欲求に 応える」とういこと。これは他者を知ろうとすることだ。 

自分を知ろうとすること、他者を知ろうとすること。この2つが合致したときに何かが生まれるのかもしれない。 

※この「結の仕事術」は、雑誌【経済界】にて2015年5月26日号から2016年4月5日号までの11ヶ月、22 回にわたって連載されたものをHPに転載しているものです。

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